※この記事は、未視聴の方にも読んでいただけるよう、物語の核心には触れていません。すでに観た方には、共感や新たな視点をお届けできれば幸いです。
Basic Info 🎬
■ 監督 | デヴィッド・フィンチャー |
■ 脚本 | アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー |
■ 原作 |
『The Killer』 アレクシス・ノラン(脚本) ラック・ジャカモン(作画) |
■ 出演 |
マイケル・ファスベンダー チャールズ・パーネル アーリス・ハワード ティルダ・スウィントン |
■ 音楽 | トレント・レズナー アッティカス・ロス |
■ 公開年 | 2023年 |
■ 上映時間 | 118分 |
■ ジャンル | サスペンス/ノワール/アクション |
Story Brief 📖
今まで一度もミスをしたことのない殺し屋“キラー”。
彼は入念な準備、徹底したイメージトレーニング、そして研ぎ澄まされた集中力によって、数々の任務を完遂してきた。
しかしある日、彼は任務に失敗する──。
自己流の哲学と完璧なルーティンで任務をこなしてきた彼に、動揺と不安が広がっていく。
失敗の代償は大きく、今度は彼自身が“狙われる側”に。
冷徹さと完璧主義が徐々に剥がれ落ちていく中、大切な人までが傷つけられたとき、彼の内に秘められた狂気が目を覚ます。
そして、執念の復讐が静かに始まる──。
Trivia
- デヴィッド・フィンチャーは本作について、「キャラクターに長々と過去を背負わせて説明させるような映画にはうんざり。2時間30分の映画を作るのにも疲れた」と語っている(ただし「冗談だよ」とも笑って補足)。 ▶︎ 彼が目指したのは、『ゲット・カーター』や『チャーリー・バリック』のように“説明しすぎない映画”。まさに本作の静かな語り口に通じる姿勢といえる。 出典:Screen Diary(リンク先は英語記事)
- 音響デザインを担当したレン・クライスは、各章ごとに舞台となる都市(パリ、ドミニカ共和国、ニューオーリンズなど)を“音”で描くことに注力したと語っている。映像で場所が映らないシーンでも、「音」で観客に都市を認識させる意図があった。 出典:Deadline(リンク先は英語記事)
- 本作で多用されているザ・スミスの楽曲は、「キラーの頭の中にいる感覚」を観客に体感させるために選ばれた。主人公が音楽を再生する瞬間、それがまるで“脳内BGM”のように画面全体を支配し、内面の声と音楽が交互に交錯する独特の演出が成されている。 出典:Deadline(リンク先は英語記事)
For you or Not? 不思議な体験🃏
これはかなり独特な作品。合う・合わないがハッキリと分かれるタイプかもしれません。
デヴィッド・フィンチャー作品の中でも、とくに『ファイト・クラブ』や『ゴーン・ガール』に通じる“理性の皮をかぶった狂気”のようなリアリズムを感じさせます。派手さはないけれど、じわじわと迫ってくるような不穏さ。そして異様な静けさ。
演出もとにかくユニーク。セリフは少なく、説明もほとんどない。ただただ「観させられている」ような不思議な感覚に陥ります。リアルなのにリアルじゃない。まさに、違和感という名のリアリズム。
正直、「おすすめの映画ある?」と聞かれてこの作品を挙げることはあまりないかもしれない。でも、観てほしい。あの独特な空気と感触を、ぜひ一度“体験”してほしい。
First Impression 無駄を削ぎ落とした美学🍴
開始5分でもう面白い──これは私にブッ刺さった。さすがデヴィッド・フィンチャー。彼ならではの絵作りに加え、マイケル・ファスベンダーの寡黙な演技も素晴らしい。
特にファスベンダーは、ほとんどまばたきをしない。その“さりげない異常さ”が、じわじわと不気味さを増していく。不自然なはずなのに、自然に見える。それが怖い。
この物語には、説明がない。主人公もほとんど喋らない。でも私は、最初から最後まで釘付けだった。その理由は、おそらく“逆説的なリアリティ”。
現代に暗殺者がいるとしたら、確かにAmazonを使っているかもしれない。レンタル倉庫を借りて、秘密を隠しているかもしれない。そんな日常に紛れ込むリアリズムが、逆に現実味を帯びてくる。
相棒もいない。よくある“ハッカーキャラ”もいない。殺し屋映画にありがちな要素が出てこない。その代わり、ただひとり、黙々とターゲットを追い詰めていく姿が描かれる🫣
その静かで地に足のついた演出が、とにかく新鮮。そして、リアルで怖い。それがたまらなく魅力的でした。
Highlights 一周回ってコメディか?😕
ストーリーはシンプル。ド派手なアクションも、軽妙なユーモアも一切なし🙅♂️
──なのに、あそこまでいくと逆にコメディに見えてくる。
冷静さを保とうとすればするほど、次々と予想外のことが起きる。そしてさらに冷静さを保とうとする……その姿に、思わず笑ってしまいそうになった。
「今までミスしたことなんてないぜ」
「俺は常に冷静沈着」
──そう誇ってきたであろう主人公。一見、慌ててないように見えるけど、内心は確実にテンパってる。その“ギャップ”がたまらなく可愛らしい。
しかもそれを演じているのがマイケル・ファスベンダーだから、余計に面白い。笑っていいのか分からない、あの絶妙な間。
冷静すぎるがゆえに、逆にコメディに見えてしまう。そんな不気味さと滑稽さが混ざり合った、なんとも言えない面白さが、この作品にはある。
Let’s Be Honest 好みに合うかどうか🌛
静かな展開や余白の多い作品が好きな人には刺さる一方で、派手さやテンポの良さを求める人には、やや退屈に映るかもしれません。
“観る人を選ぶ映画”という印象はやや強め。
本作はベネチア国際映画祭でスタンディングオベーションが起きるほど高評価を得た作品。
──とはいえ正直なところ、私はベネチア国際映画祭で出展・受賞するような作品に対して「芸術的すぎてちょっと……」と思ってしまうことも多いです。
そもそもデヴィッド・フィンチャーの作品は、芸術性の高さが評価されがち。娯楽性の高い作品は、ああいった映画祭では少数派という印象です。
そして本作は、個人的に“どっちつかず”な立ち位置に感じられました。
決して突き抜けた芸術映画というわけではないし、かといって娯楽全振りでもない。
でも──その中間を見事に射抜いたからこそ、スタンディングオベーションが起きたのでは?その“絶妙な匙加減”が、私に刺さった理由でもあると思います。
コミック原作の映画でこれだけ評価されるって、すごいことだよね😳
Takeaway 天才か鬼才か🧐
結局のところ、この作品はデヴィッド・フィンチャーの映像センスと構成力に尽きます。一見すると無駄のない静かな演出の裏に、極めて緻密な意図が張り巡らされている。
完璧主義者として、ワンシーンを100回以上撮ることもあると言われる彼。きっと頭の中ではすでに“完成した映像”が出来上がっていて、それを完璧に再現できるまで妥協しないのでしょう。
……こういう世界に身を置いていなかったら、ちょっと厳しすぎる“モラハラ上司”になってたかも😅(でもそれだけ妥協がない)でも、だからこそのクオリティ。カット割、照明、音楽──すべてがこだわり抜かれている。
あれだけ淡々としているのに、どこか“豪華さ”すら感じさせる完成度。
改めて「映画って、こういう静けさも武器になるんだ」と思わせてくれる一本でした。
Final Note📝
『ザ・キラー』
静かさと緊張感、殺し屋映画の新境地。
Trailer 公式予告💻
出典:Netflix Japan公式YouTubeチャンネル
Subscription 配信📺
※ 配信情報(2025年8月時点)配信状況は変更される可能性があります。